犬に対して「人懐っこいイメージ」「しっぽを振って近づいてきてくれる」という印象をもっている人は多いように思います。しかし、犬も十犬十色。はじめての人とすぐ仲良くなれる子もいれば、人見知りをしてしまってなかなか仲良くなれない子もいます。
今回は、犬の「人見知り」について、詳しくお話していきます。実際に犬と暮らしている方は、これから紹介する特徴が愛犬に当てはまるかどうか、いっしょに確認してみてください。
また後半では、人見知りの犬と仲良くなるためのポイントを解説していきます!「友達の犬が人見知りで、なかなか距離が縮まらない…」「愛犬にもっと人とふれあうことの喜びを知ってほしい!」そんな悩みをかかえている方必見です。
犬にも個性がある
あなたは、初対面の人とすぐに打ち解けられるタイプですか?
それとも、最初のうちは緊張してしまって、なかなかうまく話せないタイプですか?
時間をかけて、ゆっくり仲を深めていくタイプですか?
他者との関わりにおける価値観は、人それぞれちがいます。―――それは、犬も同じです。
前述したように犬も十犬十色で、性格や好き嫌い、特技などは、犬によって大きく異なります。ゆえに、人見知りの犬も当然いるのです。
犬は本来「人見知りしやすい生きもの」!
ところで、犬は本来「人見知りをする生きもの」と言われています。それは、野生で暮らしていたときの習性が影響しています。
野生の犬は、生後約90日間を巣穴で過ごします。それもそのはず、巣穴はきょうだいや家族、仲間のみが出入りをする場所。危険を脅かすような存在が遮断された、安全な場所なのです。その一方で、外の世界を知る機会はとても少ないです。
90日間が過ぎ、いざ外の世界に足を踏み出したとき。犬は、はじめて目にするもの、耳にするものなどを「怖い」と感じます。なぜなら犬にとって世界のあらゆるもの・ことは「家族以外のもの・こと」と認識されるため、自然と恐怖を感じる対象となるのです。
この「知らないものへの恐怖心」が、犬の「人見知り」の原理です。
犬が人見知りする理由を深掘り!
一方で、犬が成熟したとき、人見知りをする子としない子に分かれる印象があります。この違いに潜む理由は先天的なものと後天的なものに分かれます。
- 後天的な理由:社会化の充実度、体験(トラウマ)、年齢、認知症 など…
- 先天的な理由:生まれながらの性格、先天性疾患の自閉症 など…
後天的な理由
後天的な理由として特に知られているのは、社会化期の経験だと言われています。
犬にとっての生後3週齢~13週齢くらいまでの期間は、「社会化期」と呼ばれています。先ほど、生後約90日間を外の世界を知らないまま過ごすことで、犬の人見知りが形成されるとお話しました。実はその90日間とは、犬の世界を取り巻くあらゆるのことを知る大切な時期と言われており、この期間の子犬はさまざまなことを柔軟に吸収しやすいです。つまり、社会化期に飼い主様以外の人とふれあう経験の充実度が、人見知りの有無に大きく影響するのです!
また、過去のトラウマによって人見知りとなるケースもあります。例えば、知らない人に突然わしゃわしゃ撫でられた、心を許した人にしか触られたくない場所(頭やお腹など)を無理に触られた…など。人に対してマイナスな印象を感じる機会があると、「人と仲良くなると危険なことが起こるかも…」と不安を抱くようになり、コミュニケーションが難しくなる場合があります。その他にも、過去につらい経験がある保護犬の子は、トラウマによりコミュニケーションに消極的な印象です。
年齢も、人見知りの理由になることがあります。特にシニア期に突入した犬は、体が少しずつ自分の意志通りに動かなくなったり、足腰が痛くなったりと、さまざまなストレスを抱える時期です。それらのストレスから、警戒心が強くなったり、繊細になったりと性格が変化し、コミュニケーションが難しくなることがよくあります。若い頃はどんな人もと仲良くなれていた子も、シニアになると難しくなることがあるのです。それがシニア犬の身を守る術なのです。
先天的な理由
先天的に繊細で怖がりな子や、恥ずかしがり屋な子、警戒心の強い子は、社会化期の経験に関わらず、成犬になっても人見知りになることがあります。反対に好奇心旺盛な子や、おてんばな性格の子は、社会化期の経験が浅かったとしても人へのコミュニケーションに積極的となる場合もあります。
また、自閉症という病気をご存知でしょうか?人の病気としてはよく知られているかもしれませんが、犬もなることがあります。自閉症は、先天的な脳の機能障害です。主に、以下のような症状が現れます。
- 名前を呼んでも反応しない
- アイコンタクトがとれない
- 唐突に攻撃的になったり、怒ったりする
- 家族への愛情を示さない など…
自閉症をかかえた犬は、とても繊細な性格の子が多いです。第三者とだけではなく、家族とのコミュニケーションが得意でない場合もあります。
人見知りかどうかは「仕草」でわかる!よく見る仕草5つ
犬が人見知りになる理由は、犬の数だけさまざま考えられることがわかりました。では、人見知りの犬にはどのような特徴がよく見られるのでしょうか?詳しくお話していきます。
【仕草①】隠れる
実は筆者と暮らしている犬も、かなり人見知りです。来客があったときや、外で知らない人に近づかれたとき、わが家の犬はよく家族の後ろに隠れます。自宅の場合は、部屋の隅っこで丸まったり、テーブルの下にもぐったりすることもあります。
犬は、不安や恐怖を感じたとき、自分のテリトリーという「安全な場所」に隠れることがよくあります。ゲージやクレートのような「自分だけの場所」が準備されている場合は、そこに隠れる子も多いです。
【仕草②】吠える
「こっちに来ないで!」「怖い!」という気持ちから、知らない人に対して吠える犬は少なくありません。
犬にも感情がありますから、外で知らない人が突然自分に近づいてきたら、驚いてしまいますよね。特に人見知りの犬は、恐怖心を相手へ伝えるために「ワン!」と吠えることがあります。人が近づいたときにだけ吠える子もいれば、通り過ぎた後に吠える子もおり、吠えるタイミングは犬によって異なります。
顕著に行動が表れるのは、来客があったときです。ピンポーンとチャイムの音がしたり、外を歩く音が聞こえたりしたとき、「ワンッ」と吠えることがあります。これを「来客吠え」と呼びます。
来客吠えは「遊んでくれる人が来たのかな?」という好奇心や興奮による行為である場合もあります。一方で「知らない人が来たのかな…」「自分のテリトリーに誰か来るのかも…」と、警戒心や恐怖心から吠える場合も…。吠えと同時に体が縮こまっていたり、しっぽがピンと立ち上がったりしているときは、多かれ少なかれ他人に対してのストレスを感じているサインです。
【仕草③】しっぽを丸めて逃げる
人見知りの犬は、知らない人と対面したとき、自分の身を守るために距離を取ります。後ずさりをする子もいれば、安心できる場所まで走るなど、逃げ方もそれぞれです。
繊細な子は、逃げるのと同時にしっぽをお腹側に丸める仕草を見せます。かなり不安を抱いているサインなので、この場合は犬が安心できる場所を確保してあげる必要があります。
【仕草④】震える
震える、というワードを聞くと、体調不良や寒さの影響で震える場面を想像する方も多いかもしれません。
ところで、心身ともに極度の緊張状態となったとき、自然に手足がプルプルと震えだした経験はありませんか?この震えは、自律神経系が「アドレナリン」というストレス反応と結びつきのあるホルモンを過剰分泌させることで、筋肉が緊張している状態なのです。
実は犬も、「知らない人がいて緊張する…」「敵なのかな…」とストレスを感じたとき、アドレナリンが過剰分泌されます。その影響で、犬も人と同じように体を震わせることがあります。
【仕草⑤】目をじーっと見てくる
知らない人に対して恐怖心や不安感を抱いているとき。犬は、恐怖や不安の対象と目線を合わせないと思っている人は、案外多いかもしれません。ところが実は、人見知りの犬は第三者の目をじーっと見つめる習性があります。
犬にとって目を見つめる仕草は、本来「敵意」を表す意味が込められています。人で言う「睨む」行為と似ているかもしれません。
また、「この人は本当に安全なの…?」と、相手に敵意がないのかを確認している仕草でもあります。人への恐怖心や不安感はあるものの「どんな人なのか気になる…」と、関心がある状態にもよく見られる仕草です。
犬に「安全な存在」と知ってもらうためのポイント5つ
ここまで、犬が人見知りになる理由から、ふれあいに対してストレスを感じているときによく見られる仕草を紹介しました。
人見知りだからと言って、犬が「人とふれあうことが嫌い」というわけではありません。むしろ、飼い主様や家族など、信頼している人とのふれあい時間に対しては幸せを感じている犬が多いです。ただ単純に、家族でない「よく知らない人」とのふれあいに緊張していたり、不安を感じたりしているのです。
そんな人見知りの犬と仲良くなるには、まずは「安全な存在だと知ってもらう」ことが重要になります。 そして、犬側から「仲良くなりたい!」と思ってもらえるような配慮も、あわせて必要になります。
ここからは、興味関心をもってもらうために押さえておいてほしい、ふれあう際の大切なポイントをご紹介します。
【ポイント①】パーソナルスペースに踏み込まない
知らない人が突然近づいてきたら…人はもちろん、犬だって「怖い!」と感じるものです。特に人見知りの犬は、パーソナルスペースに突然侵入されたら、あなたに対して悪い印象をもってしまいます。
まずは、適度な距離感を保つことが何より大切です。危険の及ぶ距離ではないものの、犬の視野に入る場所にいましょう。このときしゃがみ込むと、物理的に小さく見えるだけでなく、威圧感も軽減されます。
あなたが安全な存在であることを知ってもらうために、まずは犬側に観察してもらうことからはじめましょう。
【ポイント②】視線は頭上や鼻あたり
前述したとおり、犬にとって目を合わせる行為は敵意の表れです。敵であると勘違いをされないために、目を見るのは控えましょう。
一方で、犬を視界に入れないと、ストレスを感じている仕草が表れているか確認することができません。犬の様子を見るために、目線は犬の頭上、もしくは鼻あたりにしましょう。
【ポイント③】においに気を配る
安全な人であることを最終確認するフェーズとして、犬は相手のにおいを嗅ぐことが多いです。なぜなら、犬の嗅覚はとても優れており、目や耳以上に「鼻から」情報を得ているからです。
また、相手のにおいを嗅ぐ行為は、わたしたち人で言う「自己紹介」に似ています。人の体臭から「あなたはこんな人なんだね!」と情報収集をしているのです。
一方で、香水やたばこなどのにおいがしたら、犬はどう感じるでしょう。刺激的な香りに「苦手かも…!」と嫌悪感を抱かれてしまうかもしれません。人見知りに関わらず、犬とふれあう際はできるだけあなた本来の、自然な体臭でいることを心がけましょう。
【ポイント④】敵意がないことを伝える
人の手のにおいを嗅ぐ行為は、犬にとって大きな意味をもちます。
知らない人の手というのは、犬にとっては危険な対象です。なぜなら人は、体を撫でたり、おもちゃで遊んだりと、手を使って犬とふれあうことが多いからです。そんな、犬とのふれあいにとって重要な手というパーツを嗅がせてあげることで「敵意がない」ことを示すことができます。
ここで注意していただきたいのが、決して犬に手のひらを見せないことです。犬の中には、手のひらを怖がる「ハンドシャイ」な子がいます。パーの状態になっていることで、無意識に「叩かれるかも…?」と攻撃される危険性を感じてしまうのです。特に人見知りの犬は、あなたの一挙手一投足をじっと観察しています。友好的な印象を与えるためにも、手は軽く握りこぶしにして、甲を差し出してあげましょう。
嗅いでもらいやすくするために、犬の目のまえに手をむやみに出すのは控えましょう。犬側から近づいてきており、且つ震えたりしっぽを丸める様子が見られない場合は、犬の目線より下側からゆっくり手を近づけても良いでしょう◎後ずさりや、噛みつきそうな仕草をしたら、犬から寄ってもらうのをしずかに待つことが最適です。
【ポイント⑤】おやつコミュニケーションで好感度UP
犬が大好きなおやつを活用しながら気を惹くのもひとつの手段です!
手渡しであげるのが最も距離を縮めるきっかけとなりますが、無理をさせて近づかせようとするのは厳禁です。特に怖がりな子は、おやつよりも不安や恐怖が勝ることが多いのです。恐怖のあまり手を齧られてしまうことも…。お互いに安心しておやつコミュニケーションをとるために、お皿を活用するのもオススメです◎お皿に入れて渡してあげたとしても「この人がおやつをくれたんだ…!」と犬は察してくれることが多いので、安心してくださいね。
一方で、おやつのあげすぎは、犬のカロリー摂取オーバーにつながり兼ねません。適量を守りつつ、おやつコミュニケーションを行うことが大切です。
犬の意志を尊重しながら、ゆっくり距離を縮めよう
今回は、犬の人見知りについて深堀をしました。最後に改めて、人見知りの犬と仲良くなるためのポイント5つを振り返ってみましょう。
- パーソナルスペースに踏み込まない
- 視線は頭上や鼻あたり
- においに気を配る
- 敵意がないことを伝える
- おやつコミュニケーションで好感度UP
犬の習性を知ったうえで行動するだけで、印象はガラリと変化するものです。細かな行動に配慮しながら、ゆっくり距離を縮めていくことが大切です。
また、人見知りの犬とふれあう上で、犬の性格を尊重することを忘れてはいけません。無理強いは決してせず、最初から仲良くなろうと意気込まないようにしましょう。まずは安全な存在であることを知ってもらうことに努めながら、犬の自由意志で、こちらに興味をもってくれるのを待つことが大切です。
わたしたちが運営している大型犬カフェ「ほっとひと犬」には、ドッグトレーナーの資格があるスタッフや、犬との暮らしに詳しいスタッフが在籍しております。愛犬の人見知りに悩んでいる方は、ひと息つくついでに、ぜひ遊びにいらしてみてください◎犬と暮らしていない方も、かわいい大型犬とのふれあいをとおして、犬の習性を深く知っていただけたらと思います!